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「好美、好美!」
赤ちゃんの声が聞こえなくなってすぐ、僕はベッドから飛び出して好美の肩を揺らした。声が途絶えたのは五時を過ぎた頃だ。そんな時間に起こすのは申し訳ないが、今はそれどころではない。緊急事態なのだ。
「どうしたのおさむくん……ちょ、あまり揺らさないでっ」
声に怒気が含まれる。心の中で謝罪しつつ、機嫌を取るために好美の顔を覗くと、薄っすらとクマができていた。熟睡が特技と豪語していた好美にしては珍しい。
「あれ好美、クマができてる。眠れなかった?」
「……おさむくんの寝言がうるさくて全然眠れなかったの」
「えっ、僕が寝言を?」
赤ちゃんの泣き声が聞こえてきてからはずっと起きていたが、その間は一言も声を発していない。目覚める前に呟いていたのだろうか。
しかし、それなら僕が起きた後に寝れる時間があったはずだ。もしかして、好美もあの泣き声を聞いていたのでは。それを僕の寝言と勘違いをして……勘違い、するだろうか?
「今日は気を付けてよね」
「ああ、うん。努力するよ」
「ところでさ、まだ五時だよね? こんなに早く起こすとか、何かあったの?」
「それなんだけど、ほら、由香から貰ったガラガラあるよね。それが床に落ちてるんだよ」
僕が指をさすと、貰い物にしては真新しいガラガラが所在なさげに転がっていた。腰ぐらいの高さの箪笥の上には、ガムテープでしっかり閉じられた段ボールがある。
「僕の記憶違いじゃなければ、ちゃんと段ボールに入れたよね?」
「えっ……あー実はおさむくんが寝た後、また赤ちゃんに音聞かせてたの。それで、しまい忘れちゃった。驚かせてゴメンね」
「あ、いや、それなら良いんだ。こっちこそ驚いたとはいえ、朝早くから起こしてごめん」
「ふふふ。おさむくんが慌ててる姿見れたから許してあげる」
好美がガラガラを取り出したと知ってホッとする。あの泣き声を聞いていた後だったから、何か不可思議な現象が起きたのかと思った。どうやら僕の早とちりだったようだ。
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