7月 part1

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7月 part1

「いらっしゃいませ…」  そのお客様をお出迎えした瞬間、背中を嫌な感じの汗が流れ落ちた。  やべえ…この人…郷田 修二郎さんだ…。  日本バーテンダー協会・関東支部の理事のひとり。俺が去年出場した、『エリート・バーテンダー・カクテル・コンペティション』関東大会でも、審査員を務めていた人だ。俺の親父より年上だろう。白髪混じりの髪、太い眉毛、深く刻まれた皺。恰幅のよい身体に高級そうなスーツ。  …そして、日本バーテンダー協会・関東支部の鼻つまみ者、と揶揄されている人物。  こんな日に限って、オーナーは、娘さんの結婚式の為、ハワイに渡航している。今頃、ホノルル行きの飛行機の中だ。  つまりは、オーナー無しにこのお客様の対応をしなければならないということだ! 「あー、そこの。注文いいかね。〈クイーン〉をひとつ」  夜景が一番綺麗に見えるテーブル席で、一人掛けのソファーにふんぞり返って座る郷田氏。  …やはりそうきたか。だがオーナー以外に、クイーンを作れるバーテンダーなど、ここにはいない。 「申し訳ございません。本日、オーナーが席を外しておりまして。クイーンをご提供することは難しい状況でして…」  郷田氏は、俺をぐっと睨みつけ、酒臭い息を吐きながら言う。 「なんだぁ? このバーは、お客様の要望にもお応えできないのか? 営業努力が足りないんじゃないのかねぇ。 ふん。バー・アンベリールも、随分とレベルが下がったようだなぁ!」
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