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7月 part2
午前0時。閉店後のしんとしたバーの店内。
俺は、七星に〈クイーン〉を作らせていた。
先ほど、七星が郷田氏に出したクイーンの味。それが本物か偽物か、俺自身で確かめるために。
カウンターに立った七星は、メガネをかけなおし、爪の中までしっかりと手を洗い、丁寧にカクテルグラスを磨く。
そして、カウンター裏の棚や冷蔵庫から、いくつかのお酒の瓶を取り出した。
取り出したお酒を、それぞれ小さいグラスに入れ、少量ずつ口に含む。
「ああ、やっぱり君たちだ。今から君たちを高貴な女王様にしてあげるから。ちょっと待っててね、レディたち」
…げ、なんだ、七星のやつ。まるで芝居のような独り言。マジで危ないやつなのか、こいつ。
ドン引きしている俺に構わず、七星は作業を続ける。
ミキシンググラスに氷と水を入れ、バースプーンを入れてかき混ぜ、ストレーナーという濾し器をつけて、水を捨てる。こうすることで、ミキシンググラスを冷やすと共に、氷の角を取ることができる。
氷だけが残ったミキシンググラスに、メジャーカップで測りながら、お酒を入れていく。そして、バースプーンを入れてかき混ぜる。ステアといわれる技法。地味に見えるが、バーテンダーの技量が試されるといわれる技。
「まだ…まだ足りない。もう少し寄り添って混ざり合うんだ、レディたち。もう少し、もう少し…。そう、今!」
すっとバースプーンを出す。再びストレーナーをはめ、不純物が入らないよう、静かにカクテルグラスに注ぐ。
オレンジの輪切りとオレンジミントで飾られた、深みのある琥珀色のカクテル。見た目だけは完全に〈クイーン〉だ。
「どうぞ」
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