おいしいカクテルのつくりかた

７月 part３

　いつものように、一人で閉店後の店内に残る。
　カクテルレシピ本とノートを開く。
　自分に問いかける。今日は何をしようか。何かスタンダードカクテルを、よりおいしくなるよう試行錯誤してみようか。シェークやステアの回数を変えて、お酒の銘柄を変えて、あるいは配合を変えて…。

「………ッ！」

　奥歯を強く噛みしめる。

　…何になるっていうんだ、こんなに頑張ったところで。

　昨日の七星を思い出す。
　あいつはきっと、こんな努力なんていらない。
　シェークやステアの回数とか、どの銘柄を選ぶとか、割合がどうのとか…。七星の能力は、そんなものを超越してる。

　あいつが、たった一瞬で理解できること。
　…それを俺が理解するためには、何時間も、何日も、何年もかかってしまうんだろう。そう思うと、無力感にさいなまれてしまう。

　今日、こっそり七星を観察していて分かったことがある。

　オーナーは七星に対して、姿勢やグラスの磨き方、接客に関しては厳しく指導する。だが、カクテル作りに関しては何も言わない。そのかわり、営業時間終了後、自分の作ったカクテルを味見させる。今日は、ミモザとマルガリータだった。どちらもオーナーの得意とするカクテルだ。

　オーナーは分かっているんだ。七星にとっては一流のカクテルを口にすること、そのものが勉強なんだと。