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「七星…。なんでこんな時間に…」
身体が急激に冷えて固まる。今、こいつに一番会いたくなかった。
「ああ、僕、忘れ物しちゃって。
…月城さん、いつもこんな時間まで残って、カクテルの勉強してるんですか?
すごいですね。尊敬します」
穏やかな笑顔で言う七星。
今度は、身体がかあっと熱くなる。
なんだその、上から目線のセリフは。
ふざけんな! 馬鹿にしてんのか、俺のことを!
そうだよな、おまえみたいな天才様は、こんなダサい努力なんかしなくても、どんなカクテルでも作ることができるんだもんな。凡人の無駄な足掻きだとでも思ってるんだろう!
「月城さん? 顔色が悪いですけど、大丈夫ですか…」
「うるさいっ!」
七星が俺の方に伸ばしてきた手。その七星の手を右腕で振り払う。カウンター上のリキュールの瓶に右腕が当たり、足元に瓶が落ちる。耳障りな音を立てて、瓶が砕け散った。
「おまえなんか…」
違う。これは、七星に言ってるんじゃない。これは…。
「おまえなんか、大嫌いだ」
…これはどこまでも凡人な、自分に向けた言葉だった。
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