8月 part 1

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8月 part 1

「やあ拓叶くん。久しぶり」 「お久しぶりです。藤沢さん。お元気そうでなによりです。あ、藤沢さんの会社、雑誌でお見かけしましたよ。IT業界の期待の新星、新進気鋭の経営者って紹介されてましたね」 「いやいや、あんなの、大袈裟に書いてるだけだって。しかも、もう若くもないしね。ははっ」  人の良い笑顔を浮かべ、ゆっくりと落ち着いた声で話す藤沢さん。さまざまな立場の人との交渉に慣れているのだろう。誰もが心を開きたくなる話し方。さすが社長さんだ。  藤沢 憲康さん。インターネット広告事業を中心とした、株式会社 アドバータイスメントの代表取締役。  藤沢さんは、二十代で起業し、会社を設立5年目で東証マザーズへ上場させた、すごい人だ。会社の年商は、180億円を超えるらしい。年はおそらく、34、5歳くらいだろう。  藤沢さんは、数年前、俺が八重洲のバーで働いていた頃から、俺に目をかけてくれていた。俺がここ、バー・アンベリールに移ってからも、変わらず通ってくれる。こういうお客様は本当にありがたい。  藤沢さんは、今日は珍しく女性を連れてきている。彼女に向かって言う。 「このバーテンさんね、去年の若手の登竜門、『エリート・バーテンダー・カクテル・コンペティション』関東大会で優勝した、注目の若手バーテンダーさんなんだよ」 「えー、そうなんですか。すごいですね」  若いが、品のある女性だ。華のある笑顔で褒められ、思わず嬉しくなる。   …本当にありがたい。七星にへし折られた自信が、少しだけ戻ってきたような気がする。
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