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…いた!
片付けを終え、私服に着替え、従業員の通用口から帰ろうとしていた七星の後ろ姿を捉え、左腕を掴む。そのまま七星の身体を右に引っ張り、こちらを向かせる。
七星はこちらを見ない。ずっと下を向いている。
「オーナーに聞いたよ。藤沢さん、睡眠薬かなにか混入してたんだって?
そんで、おまえはそれに気づいて止めてくれたんだよな。それならそうと、なんで言ってくれなかったんだ」
七星はぶつかりそうな程、勢いよく顔をあげた。
メガネの奥の七星の目を見て、俺は言葉を失った。
…泣いてる?
「だって、あのお客…、月城さんの大切な作品に、変な薬を入れやがったんですよ!
月城さん、あんなにカクテルに対して真剣で…、あのカクテルも気持ちを込めて作ってて…、なのにあいつは…。
僕、悔しくて………っ!」
七星はそこまで言うと、ぎゅっと唇を固く結び、また下を向く。その目から大粒の涙がいくつも零れ落ちていく。
なんで泣いてんだよ。泣くなよ…。
それじゃまるで、まるで…。
俺のために怒って、俺のために泣いてるみたいじゃねえかよ…。
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