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「…なあ七星。それでもお客様を殴るなんて、バーテンダー失格だよ。
だから俺がおまえを鍛えなおしてやる。閉店後、俺と一緒にここに残れよ。おまえの根性、叩き直してやるから。
そのかわりおまえの舌を使って、俺のカクテルの問題点や課題を教えてくれ。
おまえは俺の、俺はおまえのライバルだ。…ってのは嫌か?」
ああもう、なんで俺はこんな言い方しかできないんだ。
まずは謝らないと。それからお礼を言わないと。つうか、凡人の俺とライバルなんて、おこがましいよな。
恐る恐る七星を見て…俺は思わず息を飲んだ。
七星はほおに涙の筋を残したまま、喜びを隠しきれないというように微笑んでいた。
下がった眉。細めた目。口角を上げ、唇の隙間から僅かに見える白い歯。まるで火が灯ったように上気したほお。メガネの奥の七星の瞳が、まだ残る涙で潤んできらきらと輝いている。
俺の右手を両手で包み込んで、七星は言う。
「嬉しいです。一緒に頑張りましょう、月城さん」
「…拓叶、でいいよ。月城さんなんて他人行儀だし」
目を逸らして言う俺の耳に、七星の声が届く。
「はい。拓叶さん」
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