8月 part 3

2/3
前へ
/193ページ
次へ
「じゃ、やるか。今日はマティーニな」  マティーニは、「カクテルの帝王」と呼ばれている。使われるお酒は、ジンとドライベルモットのみ。あとは、飾りにオリーブやレモンピールを使うくらい。非常にシンプルなお酒だ。だが、シンプルゆえに難しい。1979年に出版された「ザ・パーフェクト・マティーニ・ブック」では、なんと268種類のレシピが紹介されているそうだ。  俺はカウンターに立つ。  冷やしたミキシンググラスの中に、お酒を入れる。  ドライ・ジン 50ml。ドライベルモット 10ml。そのふたつのお酒をミキシンググラスに入れ、バースプーンでステア(混ぜる)すること30回。  静かにバースプーンを取り出し、カクテルグラスに静かに注ぐ。仕上げにオリーブをひとつ、そっとカクテルグラスに入れる。 「どうだ?」  七星は一口飲み、メガネの奥の目を細めて言う。 「もう少し、傲慢な高貴さを加えてください。このままではカクテルの帝王どころか、カクテルの乞食です」 「もう少し具体的にアドバイスしてもらえませんかね⁉ てゆうか、シンプルに酷評!!」
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

749人が本棚に入れています
本棚に追加