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「なあ七星。俺さ、西麻布の山本さんや、あの歌舞伎町の桐谷の言ったこと、いろいろ思い返してんだけどさ」
桐谷の名を出したとたん、七星は顔をしかめる。
気持ちは分かるが、今言いたいのは桐谷の話じゃない。
「客単価、回転率、立地…。そんなんも確かに大事だ。けどさ、それって結局、バーのコンセプトがどうなのかによるんじゃねえかな。
俺はいったいどんなバーを作りたいのかってことを、マジメに考えないとなって思ってんだよ」
七星はメガネを押さえ、真剣な表情を浮かべている。もしかしたら、七星もそういう悩みを抱いてんのかな。
「…つまり、あれですか? 拓叶さんは、媚薬飲まされて強引に迫られるのが好きってことですか?」
「いや強引なのはあんまり好きじゃな……、って違うわ! 自分の性癖の話なんかしてねえ!
おまえ、人の話ちゃんと聞いてたか⁉」
駄目だこいつ。気ぃ抜けすぎだ。頭を抱えてしまった俺を見て、七星は慌てて言い繕った。
「ごめんなさい、拓叶さん。大丈夫、ちゃんと聞いてますから!
…そうですね。僕もそこは悩んでます。残念ながら全ての人に向けたバーなんてできません。山本さんや桐谷のように、ある程度客層を絞る必要はあります。
つまり、誰のためのバーにしたいか、ということですよね」
七星のセリフに、俺はほおづえををついて考える。
俺はどんなバーを、誰のためのバーを作りたいんだろう。
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