7月 part1

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 郷田氏の大声に、近くのテーブル席にいる男女が眉をひそめる。このままだと、バー全体の雰囲気を損ねてしまいかねない。  …考えろ、この場を丸く収める方法を。この人にある程度、満足して帰っていただく、そういう方法を考えなければ…。 「お待たせ致しました。〈クイーン〉でございます」  七星が、深い琥珀色のカクテルを、恭しく郷田氏の目の前に置く。  …信じられない。何やってんだ、七星の馬鹿野郎!  まだカウンターにすら立たせてもらえないド新人が!  その人、日本バーテンダー協会の関東支部の理事だぞ! 審査員とかやってる人だぞ! 猿真似カクテルが通用するわけないだろ!今すぐ謝罪して引っ込めろ! くそっ、こうなったら俺が謝罪するしか…。 「ああ、この味だ! やはりこれでなくては。さすが佐久間オーナーだ!」  上機嫌で言う郷田氏。…どういうことだ? 「すみません。オーナーは電話対応中で、今は出て来れないんです。でも、あなた様のことをお話したら、電話を保留にして、すぐにこのカクテルを作ったんですよ。あなた様は、特別なお客様なのですね」  爽やかな笑顔で、ぬけぬけと嘘八百を並べる七星。 「そうだろうとも! 佐久間オーナーは…あいつは、この私が育てたんだよ!あいつが初めて全日本の大会に出た時から、私は目をかけてやっていたんだから」 「そうなんですね」  機嫌よく語り続ける郷田氏を七星に任せ、俺は一旦下がる。  なんだ?カクテルの味すら分からなくなるくらい、酔っぱらってるのか?  それとも…。 …まさか七星が、オーナーの〈クイーン〉を完璧に再現したっていうのか?
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