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10月 part 2
10月中旬。午前2時。
「拓叶さん! これ、おいしいですよ!」
閉店後の静かな店内に、七星の声が響く。
「えっ、マジ⁉」
テンションが上がる。
思わぬ七星の誉め言葉に、弾む気持ちが抑えられない。
「はい! この〈ホワイトレディ〉、かなりいい感じですよ!
まず、ドライ・ジンですけど、冷凍したものを使ってますね。一口目のキレがすごくいいです。
リキュールは『コアントロー』ですね。最も香り高いオレンジリキュールと言われながら、色は無色透明。しかも冷やすと淡く白濁するので、ホワイトレディにはぴったりです」
七星の賞賛が止まらない。
「スタンダードレシピは、ジン、コアントロー、レモンジュースが2:1:1ですけど。拓叶さん、スタンダードレシピに捉われずに、オリジナルの比率で入れてますよね。しかもレモンジュースじゃなくてレモン果汁を加えてるので、甘さもあり、シャープな酸味も加わってますね」
工夫した点を、一口で全部見抜いてくれる。
嬉しいやら恥ずかしいやらで、情緒がおかしくなりそうだ。
「ホワイトレディは、ショートカクテルの基本形だと言われてます。ベースのジンの風味、酸味、甘みの三位一体のバランスが大切です。コアントローはしっかり混ぜないといけませんが、シェイクしすぎると水っぽくなります。その中間点を探さないといけないんです。でも、その中間の加減が意外と難しいんですよね。
つまりは、このホワイトレディがおいしく作れるということは、シェイクの基本がきちんと身についている、ということですよ。拓叶さん!」
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