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もうデザートが運ばれてきてしまった。たわいもない話をしながら、七星は葡萄のシャーベットを口に運ぶ。庭園を見ながら、顔にかかる髪をかきあげる。その時、俺は気づいた。七星の耳に何かが付いていることに。
「七星、その耳についてるの、なに?
なんか、耳の穴に埋まってる肌色のやつ。イヤホン?」
七星は一瞬だけ顔を曇らせたが、すぐに笑顔を向けた。
「ああ、これですか? 補聴器ですよ。けっこう目立たないでしょ?」
髪をかきあげて、もう一度見せてくれた。耳の穴にすっぽり入った補聴器。肌色のワイヤレスイヤホンみたいだ。
「拓叶さんも知ってるように、僕、嗅覚と味覚が普通の人より鋭いんです。
そのかわり、かは分かりませんが、僕は視覚と聴覚、そして少しですが痛覚が鈍いんです」
息を飲んで七星をまじまじと見た。目にはメガネ、耳には補聴器。今まで見えなかった、七星の影の一面。ぽつりぽつりと七星は語る。
「子どもの頃からずっと、自分はなにかがおかしいと思いながら生きてきました」
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