10月 part 3-2

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10月 part 3-2

 七星はスプーンを置き、窓の外の日本庭園を眺める。いや、庭園の向こう、どこか遠くを見ているような。 「小学校1年生の時から眼鏡をかけていた僕は、クラスでからかいの対象になり、友達がなかなかできませんでした。僕のことを話し合うために、学級会が開かれたこともあります。 給食の時間が苦痛で、毎日泣きながら給食を食べていました。みんな、おいしいおいしいと食べてる給食なのに。僕は、食材の炒め方、煮る順序…、それらひとつひとつが気になってしまうんです。昼休みでも、給食を完食しないと遊びに行かせてもらえなかったので、いつもみんなの遊ぶ声を聞きながら、黙々と給食を食べ続けていました。 ある時、我慢できなくなって。 あの人参や大根は煮詰めすぎてる、あのお肉は焼きすぎて硬くなっている、と給食の調理員さんに直談判して、調理員さんに困惑されてしまいました。あとで担任の先生に、調理員さんに失礼だとこっぴどく叱られました」  七星は寂しそうに笑う。  子どもの味覚は大人よりも鋭いと聞いたことがある。七星の場合はそれが顕著だったんだろう。なにより、必死の訴えを理解してもらえなかったことが、七星の心に傷を残したのかもしれない。  ほかの感覚のズレも七星を苦しめた。例えば少し鈍い痛覚も。 「子どもの頃、身体に見慣れない擦り傷や青あざがついていることが何度もありました。もちろん血が出れば痛みを感じます。でも軽い怪我だと気づかず、そのまま過ごしてしまうんです。 今でもお風呂に入る時には、まず見慣れない傷がないか確認します。 そういえば、子どもの頃はよくストレスが溜まると、血が出るまで爪を噛んでいましたし。もしかしたらそうやって、足りない刺激を補っていたのかもしれません」
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