一章

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「相変わらずだよ。 描き続けてる。まあ、変わった事と言えば一年くらい前から、描いた作品が必ずすぐに売れるんだ。 やっと俺の才能に気づいた人が現れたのかね」 俺は得意げに言って、生ビールを口に注いだ。喉を通る感覚がして、すぐさま焼ける様な感覚が喉を襲い、それが快感に変わる。 これが喉越し。だから生ビールはやめられないのだ。 「へぇ…… 変わった趣味の奴がいるもんだな。 で、これは? 」 坂東は口の周りにできた白い髭を手で拭った後、右手の小指を立てた。 やはり結局はこの話だ。 俺は生まれてこのかた彼女が出来たことがない。つまり彼女いない歴=年齢だ。 自分でも情けないと思うが、それは全て環境のせいだと言い聞かせている。 大学を卒業してから、俺は定職にはつかず絵を描き続けていた。いつか絵だけで食っていけると信じていたのだ。 そして信じ続けて気付けば三十二歳。 なんとか起業し、社長になり一年前からやっと絵だけで食っていける様になった。しかし、絵だけを描き続けていた俺には出会いなどある筈もなく、未だに独り身だ。
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