一章

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「まだいないよ。そういうお前は? 」 当然俺はこの三十二年間一度も告白なんてした事もないし、しようと思った事もない。そう思えるくらいの人に出会っていなかったのだ。これも環境が悪い。 しかし心の何処かで環境の所為ではない事を知っているのも事実だ。 だが、心の何処かでそう思っていても、見ず知らずの美女が突然俺に告白してこないかと期待している。要は自分が傷つきたくないのだ。 俺はまた生ビールを口に流し込んだ。この甘い考えも一緒に流し込めればどれだけいい事か。 「俺は、これだわ」 坂東はまた生ビールの入ったジョッキを口元に運んだ。その時に見えた薬指に光る輝きを俺は見逃さなかった。何て嫌な見せ方だろうか。 しかし正直のところ驚きはなかった。昔から坂東はモテたし、俺とは違い積極的だ。この歳で結婚した事はまあ妥当だろう。
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