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今日、5年間付き合っていた恋人が出ていった。
切っ掛けは小さなすれ違い。
思い返せば本当に些細なものだった。
彼は物を殆んど持って帰ってしまったけれど、彼と一緒に撮った写真や彼がよく飲んでいたコーヒーの豆。彼の好きな銘柄の煙草はそのままだった。
今更、後悔したところでなにも変わりはしない。
けれど次から次に思ってしまう。
あのとき、彼の手を握っていたなら。
あのとき、もっと言葉を尽くしていたなら。
あのとき、もっともっと彼のことをちゃんと見ていたなら…こんな別れはしなかったんじゃないかって。
どんなに別のことを考えようとしても、溢れて溢れて止まらなかった。
日が落ちかけ、夕方に差し掛かってきた。
私は気晴らしに彼が置いていった煙草を1本取り火をつける。
一息吸うのと同時に倦怠感と強い目眩が私の頭を縦に横に揺らした。
当たり前だ。今まで煙草なんて一度も吸ったことなどないのだし。
煙草からゆらゆらと天井へ昇る煙を見つめながら、また私は考える。
(私はこの先も彼が居なくなったこの部屋で、暮らしていかなきゃいけないのか)
窓を開けると心地いい風が肌を撫でた。
彼の匂いは、まだ消えない。
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