第1章

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「天降語(アメフルカタリ)~国譲神話遺聞~」 序  彼らは、かつてこの世界に侵入した異界の神々に対抗する為に創られた。  この世界の理を操ることによって得られた絶大なる攻撃と防御。万一の死に備えた、星幽体制御による窮極の再生能力―――転生。彼らは、戦いに特化された歪んだ命だった。  しかし彼らを従えた絶大な戦力を以ってしても、彼らの創造主は異界の神々に敗れ、やがてこの世界を去った。そして異界の神々もまた、別の大きな力によって封印された。神を創った神が去り、神を脅かした神が消え、彼らだけが遺された。  彼らは途方に暮れた。彼らが唯一そのために存在していた戦場は、何処にも無くなってしまった。彼らは永遠の命と大きすぎる力を持て余した。  やがて彼らは、その創造主の真似事を始めた。即ち彼らの創造主がそうしたように―――生命を創った。彼らに似た形を持ち、しかし圧倒的に劣る力しか持たず、だが生殖本能だけは旺盛な下等な生命。  彼らはその生命を使い、彼らの永遠の余生を過ごす事とした。ときに殺し合わせ、ときに愛し合わせ、彼らはその寸劇を見ては暇を潰す。彼らにしてみればその生命―――人間たちは、戯れの駒にしか過ぎなかった。  そして幾星霜の時が流れ、アマテラスとタカギムスヒの二柱を頂点とする彼らは―――八百万の神と呼ばれるようになった。 1章.二神邂逅 一  いつとも知れぬ古い時代。未だ神が産声を上げ続ける太古。足下には無限のような野原に散在する杜(もり)の木々、頭上には蒼穹が広がり―――しかしてそこは、決して地上では無い。高天原と呼ばれる場所。  その社の一つ。茅葺の屋根にひときわ無骨な檜で組み上げた、巨大な小屋のような、しかしある種の武威を感じさせる館の庭。照りつける太陽の下、二つの影が斬り結んでいる。大と小、大人と子供の影が交わっては離れ、庭の剥き出しの土に刻まれた足跡が砂埃に掻き消されていく。 「情けない…もう息が上がったのか?」  イツノヲハバリは剣を地に突き立て、白いものが混じり始めた顎鬚を撫でながら息子を見下した。 (無茶だ…)  息子は、地を舐めながらそう思うことしか出来ない。激しい息づかいに、声を上げることもまなならぬ。口の中は砂利で一杯で、最早目を開ける事すらも叶わなかった。
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