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きょうだいの海
見慣れたはずの道もこの時間に歩いてみると、なんだかそわそわする。早朝の空気はみずみずしくて、出会うたびによそよそしい気持ちにさせられる。
隣を歩く杜月がやけに饒舌なのもらしくなくて、胸のあたりがむずがゆかった。
「そんなに言うほど、いいところじゃないよ、きっと」
そう遮ると、杜月は早口でまくしたてていた海原への空想を飲み込んで「そうかなぁ」と俯いた。
「ここよりはいいところだよ、絶対。だから澪ちゃんは行くんでしょ」
つま先をにらんでポツリとふてくされる杜月。四月から中学校生活も二年目になるというのに、その不機嫌なふくれ面は幼い駄々っ子そのものだった。
「しかたないでしょ」
言ってから、何がしかたないのだろうと思う。
何かを取って、何かを捨てる。誰もがやっている繰り返し。私は海を知るために陸を離れる。ただそれだけのことなのに。でも選んだのは私で、杜月はそれが気に入らないのだろう。
「僕はまだ学校に行かなくちゃいけないのに」
幼いとき、水族館で交わした約束のことを思い出した。
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