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「澪ちゃん」
杜月はズボンのポケットから引っ張り出したものを、私に差し出した。
「これあげる」
私の手に乗ったのは、銀色のチェーンがついた星型のペンダントだった。規則正しく頂点を張り伸ばした形はまるで……、
「ヒトデみたいだったから、好きかと思って」
やっぱり私達は似た者同士だ。いつでも海を想っている。
「今日、ホワイトデーなんだよ。感謝とお返しの日」
お別れの日だから、じゃなくて。
「バレンタインのお返し? ありがとう」
「それだけじゃなくて、今までの」
「今までのって」と訊ねた瞬間、妙な感覚にとらわれた。
地についていた両足が、ふっと地面からの反発を失った。
耳に詰め物をしたように音は遠ざかり、かすかに頬をなでていた薄ら寒い風は途絶え、ぴたりと張り付くように冷たい液体が全身を包んだ。改札へ続く階段も、待ち合い用のベンチも、終わりの見えないレールも、青い揺らめきの中で少しずつ形を歪ませていた。
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