きょうだいの海

3/6
前へ
/6ページ
次へ
「澪ちゃん」  杜月はズボンのポケットから引っ張り出したものを、私に差し出した。 「これあげる」  私の手に乗ったのは、銀色のチェーンがついた星型のペンダントだった。規則正しく頂点を張り伸ばした形はまるで……、 「ヒトデみたいだったから、好きかと思って」  やっぱり私達は似た者同士だ。いつでも海を想っている。 「今日、ホワイトデーなんだよ。感謝とお返しの日」  お別れの日だから、じゃなくて。 「バレンタインのお返し? ありがとう」 「それだけじゃなくて、今までの」 「今までのって」と(たず)ねた瞬間、妙な感覚にとらわれた。  地についていた両足が、ふっと地面からの反発を失った。  耳に詰め物をしたように音は遠ざかり、かすかに頬をなでていた薄ら寒い風は途絶え、ぴたりと張り付くように冷たい液体が全身を包んだ。改札へ続く階段も、待ち合い用のベンチも、終わりの見えないレールも、青い揺らめきの中で少しずつ形を歪ませていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加