2章 悪魔と勇者

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(こんなのが本名だったのか……にしてもこの勇者の強さ、転生者特有の能力があるわけでもないのに、剣と魔法だけでここまで強くなるとは、結構な努力家だ) エルサルバドルが魔力を吸い取り、新たに魔力を注ぎ込むと、勇者「あ」の体から、波紋のように呪印が外れて拡散した。 「あの天使め!やっぱりこれ呪いだったんじゃねーか!」 それが、この「あ」という男の、はいといいえ以外の第一声だった。 「ありがとうございます、悪魔さん」 そういうと「あ」は悪魔に頭を下げた。 「どういたしまして、あなたはもう魔物を滅ぼすという宿命から外れました」 「あ、そうか、まあいいや、死んだらおしまいだし、こうやって普通に喋ることもできるんなら、街で暮らすこともできる」 エルサルバドルは会話をしながら、部屋の隅っこで倒れているロニセラに魔力を注入し、魔法をかけていた。 「何でしたら、勇者さん、せっかくそこまで強くなったんです、私達のところで働いてみませんか?」 「んー、たしかに天使に恨みはあるけど、この世界の人間に恨みはないしな、それに、せっかくだからこの世界を楽しみたいし」 「そうですか、では、隔週で家庭教師のバイトなんてどうですか?」 「ううぅ、酷い目にあったのじゃ」 ロニセラが起き上がり、頭を抑えてフラフラしている 「家庭教師?俺はこの世界の学問に詳しくないし、魔物の社会なんてもっとわかんねーけど?」 「あ!!おのれトンガリ勇者!さっきはよくもやってくれたのじゃ!」 そう言って飛びかかろうとするロニセラを、エルサルバドルがひょいと持ち上げる。 「ここのダンジョンのボスであるロニセラ様は、戦ったあなたが1番よくわかるように、魔力は凄まじいのですが、その使い方を知りません」 「のじゃ?」 「ですので、あなたが戦い方を指導して、当面の活動資金を稼ぐというのはどうでしょうか?魔物を倒す事もなく、戦いの知識や経験を活かしてお金を稼ぐのです」 「んー、そのくらいなら、別にいいかもしれないな」 「おぬしが良くても、わらわは嫌なのじゃ」 「そんなことを言っていると、また次にくる勇者にもやられてしまいますよ」 「うう」 「俺は構わないぜ、悪魔さんには恩があるし、街から少し遠いけど、俺なら魔法で一瞬で飛べるからな」 「その勇者魔法、わらわも使ってみたいのじゃ」
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