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(こんなのが本名だったのか……にしてもこの勇者の強さ、転生者特有の能力があるわけでもないのに、剣と魔法だけでここまで強くなるとは、結構な努力家だ)
エルサルバドルが魔力を吸い取り、新たに魔力を注ぎ込むと、勇者「あ」の体から、波紋のように呪印が外れて拡散した。
「あの天使め!やっぱりこれ呪いだったんじゃねーか!」
それが、この「あ」という男の、はいといいえ以外の第一声だった。
「ありがとうございます、悪魔さん」
そういうと「あ」は悪魔に頭を下げた。
「どういたしまして、あなたはもう魔物を滅ぼすという宿命から外れました」
「あ、そうか、まあいいや、死んだらおしまいだし、こうやって普通に喋ることもできるんなら、街で暮らすこともできる」
エルサルバドルは会話をしながら、部屋の隅っこで倒れているロニセラに魔力を注入し、魔法をかけていた。
「何でしたら、勇者さん、せっかくそこまで強くなったんです、私達のところで働いてみませんか?」
「んー、たしかに天使に恨みはあるけど、この世界の人間に恨みはないしな、それに、せっかくだからこの世界を楽しみたいし」
「そうですか、では、隔週で家庭教師のバイトなんてどうですか?」
「ううぅ、酷い目にあったのじゃ」
ロニセラが起き上がり、頭を抑えてフラフラしている
「家庭教師?俺はこの世界の学問に詳しくないし、魔物の社会なんてもっとわかんねーけど?」
「あ!!おのれトンガリ勇者!さっきはよくもやってくれたのじゃ!」
そう言って飛びかかろうとするロニセラを、エルサルバドルがひょいと持ち上げる。
「ここのダンジョンのボスであるロニセラ様は、戦ったあなたが1番よくわかるように、魔力は凄まじいのですが、その使い方を知りません」
「のじゃ?」
「ですので、あなたが戦い方を指導して、当面の活動資金を稼ぐというのはどうでしょうか?魔物を倒す事もなく、戦いの知識や経験を活かしてお金を稼ぐのです」
「んー、そのくらいなら、別にいいかもしれないな」
「おぬしが良くても、わらわは嫌なのじゃ」
「そんなことを言っていると、また次にくる勇者にもやられてしまいますよ」
「うう」
「俺は構わないぜ、悪魔さんには恩があるし、街から少し遠いけど、俺なら魔法で一瞬で飛べるからな」
「その勇者魔法、わらわも使ってみたいのじゃ」
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