5章 伝説の勇者

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体当たりがなければ、翼竜の首を斬られていた。 エルサルバドルは咄嗟に、この場から逃げるための最良の方法をとった。 負傷したドラゴンととろけるメタルの子供を連れ、ここから安全に離れる方法。呪文の同時詠唱だった。 〈影の王〉 エルサルバドルの影がプツッと途切れて、スーッと男の方へ音もなく近寄っていく、男の影と重なったかと思うと、モニョモニョと影は形を変え、頭に冠を戴いた平面の巨大な影に、ヘラヘラと笑う顔が浮かぶ。 〈地獄の門〉 縦に10メートル、横に5メートルほどの巨大な赤黒い門が地中からせり出し、生物の骨と蝋燭によって装飾された扉は、重厚で堅牢、陰鬱で怪異な雰囲気を纏っていた。扉の奥は暗黒へと繋がり、目のギラついた門番が、少しだけ開いた門から覗き見ている。 エルサルバドルは同時に2つの呪文を唱えると、負傷したドラゴンには口笛で帰還を命令し、門をくぐらせた。 金髪の男の方を向き、その場から動かないウィリンを手で掴むと、門に向かって投げた。 「魔物どもめ、逃すか!」 そこに〈影の王〉が襲いかかる。 金髪男の影に取り憑いた実体は、右腕部分をフォークのような形状に変えて、黒い刃で勇者を突き刺した。男は攻撃を影ごと剣で裂くと、避けたはずの勇者の右腕に赤い筋が浮かび上がり、シュウッと血が吹き出る。 「なんだと!?」 切り裂いたダメージがそのまま自分に反射した。 そこへ、エルサルバドルは間髪入れずにかかと落としを繰り出す。 バキンという音とともに、マントの肩部にヒビが入り、男の足元が地中に少し埋まる。 (地獄の門が転送を終えるまで時間を稼がなければ) エルサルバドルが回し蹴りを腹部に叩き込もうとした時、男のマントが大きく伸びてその衝撃を吸収し、また同時に、形状を鋭く変えてカウンターを狙ってきた。 怪鳥のくちばしのように尖ったマントは、エルサルバドルの頭の上をかすめた。避けなかったら確実に頭部を貫いていた。 次にマントはその形状を天使の翼のように変形させると、その男ごと森の方へ下がっていった。 森の木陰に入ると、男はそのまま姿を消した。 エルサルバドルは地獄の門のゲートに入ると、すぐにそれを閉じた。
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