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始業式の翌日の昼休み、咲村(さきむら)蓉子(ようこ)が数人の女子を引き連れて、早速貴宮さんに声を掛けていた。私はその様子を、何気ないふりをしながら観察した。蓉子は、このクラスにいくつか存在する女の子のグループの、最も有力なリーダーだった。男の子はあまり知らないが、女の子というのは、いつでもグループを造って行動するものだ。トイレに行くにも、お弁当を食べるのにも、一人で行動するのは異端の生き物なのだ。
「私たちも、貴女のことを知りたいし。ねえ?」
蓉子がゆるくウェーブのかかった栗色の長い髪をかき上げて、後ろに控える数人の女子を振り向き、優雅に微笑む。
(うわ…これ、笑顔の脅迫だわ)
私は、その光景を見ながらぞっとした。右も左も分からない転入生を数人で押し包む。誰も知らないクラスに投げ込まれた女の子が、そのプレッシャーに耐えられるはずが無い。
「いいわよね?」
既に決定した事項を確認するように蓉子が念をおす。着席したまま無言で見上げる貴宮さんは、やがて言い放った。
「いいえ、結構…です。私は、一人が好きですから…」
その瞬間、蓉子の長い睫毛が痙攣したように私には思えた。
「そう…。…じゃ、仕方ないわね」
侮辱されたかのように震えながら、蓉子は踵を返した。取り巻きの女の子を連れて、窓際の貴宮さんとは対極に位置する場所でお互いの机をくっつけて、バツが悪そうにお弁当を開く。私の席からはごく近いところだった。
「何よ、変な子。お高くとまっちゃってさ」
「ホントホント。何様のつもりかしら? ねぇ、亜衣?」
「う、うん…。私も、そう思う…」
頬杖を突いたわたしの耳に、そんな声が聞こえて来る。さり気なく瞳をそちらに向けると、お下げにソバカスの小柄な女の子が、おどおどしながらみんなに同調していた。
(榛原さん…。あんな子でも、グループには入ってるのに、ねぇ…)
地味で内気な榛原さん―――榛原(はいばら)亜衣(あい)さんは、クラスでも目立たない女の子だった。そんな子ですら、グループに属さなければクラスに居場所が確保できないのだ。
私は溜息を吐いた。どうやら、私の出番らしい。私は素早くお弁当を平らげて、タイミングを計った。
「さっきのって、すっごくまずいわよ、貴宮さん」
私は昼食をとり終えて席を立つ貴宮さんの後を追いかけて、人影がまばらな廊下の片隅で話し掛けた。
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