1人が本棚に入れています
本棚に追加
「君が、殺ったんだな……? 君が、この戦場の生ける者全てを、殺したんだな?」
「……………………」
紅い瞳を鋭くして睨み付けて来る少女の態度を、副操縦手は肯定と取った。
「やはり、そうなのか……! やっぱり、そうなんだな!」
――人間はここまで、効率よく人を殺せるのか……。しかも、こんなにも美しい少女が……! そうか……ならば、全ての兵器など意味が無い! こんなにも美しい存在が戦場を蹂躙するなら、こんな戦車など、非効率的でグロテスクなだけの化物だ……!
兵器の、人殺しのために極限まで磨き抜かれた機能美に魅せられて技術士官となった若い副操縦手は、どんな機械よりも美しく、そして優れた殺戮者たる少女の存在に身を打ち震わせて感動していた。
「クソったれ、何を呆けてやがる! 女だろうが敵だぞ、坊や!!」
砲手が、狂ったような薄笑いを浮かべている副操縦手を押しのけ、拳銃(※ガバメント)を少女に突きつける。
「……ッ!」
バァン! 銃口が火を吹き、銃弾が少女の剥き出しの太腿を撃ち抜いた。
「く……ッ!」
「がぁッ!?」
わずかに身を折った少女は、だが紅い瞳を凶悪に輝かせると、怯むことなく刃を車内に突き入れ、砲手の喉元を刺し貫いた。
「日本兵(※ジャップ)が……!」
血風を巻き上げて倒れ込む砲手と入れ替わるようにして、今度は操縦手が拳銃を引き抜くが、少女は刀を逆手に素早く持ち換えると、狭い車内の隙間を機械のような正確さで縫い、彼の胸元に刃を突き立てる。
「ぐう……ッ!」
蹲り、動かなくなる操縦手を後目に、若い副操縦手の目は、撃たれた少女の太腿に釘付けになっていた。
「なんだ……これは……?」
少女の太腿の弾痕からは、血が一滴も流れてはいなかった。四十五口径弾が白い肌に開けた穴からは、キリキリ、カチカチ、と振子時計のような規則正しい音が漏れ――やがて傷跡から、ポロリと小さな歯車が零れ、コン、と見上げる副操縦手の眼鏡のレンズの上に落ちて止まった。
「歯……車……だと…………?」
副操縦手は眼鏡から歯車を摘み上げ、間近から瞳に映し愕然とする。
「君は……君は、機械……兵器……なのか……?」
「…………」
少女は表情をわずかも動かすことなく、切っ先を副操縦手の顔に向けると、狙いを定めた血塗れの刃を引き絞る。
最初のコメントを投稿しよう!