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「そうか……そうなんだな……!? はは……ならば、君はますます美しい……君はなんて美しいんだ…………!」
仲間たちの死体に囲まれた副操縦手は、最早、狂気を隠そうともしなかった。少女の体内から零れ落ちた歯車を愛おしげに握り締め、笑い声を上げる。
「ははは、はははははは! そうか! 人間はもう、こうも美しい兵器を造り出していたのか! 僕の夢はもう、叶っていたのか! 残念だよ、君を解体して、そのカラダの構造(※ナカミ)をこの目で見て! 君と同じモノを……いや、君をこの手で組み上げたかった! だがいいさ、こんなにも美しい兵器の手にかかるなら、君に殺されるなら、僕は喜んで……ッ!」
眼窩を狙って少女の刃が突き出された時も、副操縦手は満ち足りていた。殺戮という究極の実用性のため、兵器の機能と形態が奏でる合理的な美しさが好きだった。戦場で流れる血は、人類の叡智の結晶たる兵器の発展によって贖えるとすら思っていた。そのような兵器が開発したくて、大学を首席で卒業し、数多の企業から求められながらも全て断り、軍に入り、技術士官となったのだ。
だが、斜陽の日本軍がここまで美しい兵器を完成させていようとは。この少女の形の殺人人形(※マ―ダ―ドール)の全てを知り、自らの手で創り出したかったが、それが叶わぬならば、この兵器に命を刈り取られることこそ、若い副操縦手にとって至上の悦びだった。
パキィン……ずぐっ!
「が……ッ」
少女の刃の切っ先が眼鏡のレンズを叩き割って、狂笑する副操縦手の右目を抉る。視界が赤く染まり、切っ先が眼底を砕き、大脳を貫こうとした時だった。
「雫(※しずく)……ッ!」
不意に少女とは別の声が響き、彼女の刃は、副操縦手の脳を傷つける寸前で止まった。
「高町(※たかまち)……技術少尉……?」
ず……っ、と副操縦手の右目から刃を無造作に引き抜きながら、雫と呼ばれた少女が、チィィ……と、紅い瞳にかすかな機械音を鳴らせて振り返る。少女と同じくらいの年恰好の軍服姿の少年が、彼女を後ろから抱きすくめていた。
「今、伝令が着いた……。日本は敗けた。敗けていたんだ、一カ月も前に……戦争はとっくに終わっていたんだ! もう、君は……もう君は戦わなくていいんだよ、雫……っ!」
少年は、少女の背中の黒髪に顔を埋めるようにして、嗚咽のように叫んだ。
「戦わなくて……いい……?」
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