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よく分からず繰り返したが、気づいた様子もなく思いついたように多娥丸が言った。
「さっきの飛沫を浴びてずぶ濡れだな。俺達はこれからひと風呂浴びに行くが、一緒に来るか」
「ひと風呂……もしかして、あの旅館に行くのか」
鼓動が大きく打つのを感じながら問うと、多娥丸は「そうだ」と頷く。
ぶわ、と鳥肌にも似た感覚が全身を襲った。
「っ、行く!」
考えるより先に口走っていた。
また行ける、あの場所に。
また、会える。
元気だろうか。
あれから七年だ。少しは変わっているかもしれない。
「いやでも、待てよ……確かさっき多娥丸が七日前って……」
「よーし! 舵を切れ! 魔宵ヶ旅館に向かうぞ!」
手下の妖怪達が声を揃え、船は吹き荒れる風などものともせずゆったりと向きを変える。
帆を張った帆船は湾を出たところで陽炎のように薄れ消えた。
色を濃くした雲が厚く空を覆い、薄暗い湾を暴れ回る風が港に固定された船を激しく揺らし、波が叩きつけるようにテトラポットを洗う。
台風は勢力を増しながら着々と近づいていた。
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