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当時四十代の夫婦はずっと不妊治療をしていたが、このほど諦め先々養子を迎えるために里親の手続きを済ませたばかりだった。
顔合わせの日、明空は話を聞いてからずっと抱えていた疑問を夫婦にぶつけた。
「隣の乳児院にいる赤ちゃんじゃなくていいの」
すると夫婦は揃って目を丸くし、次いで顔を見合わせておかしそうにふっ、と笑った。
「あなたを見た時、『この子だ!』って思ったのよ。あなたと家族になりたいの。おばさんたちの子になってくれる?」
あなたがいい、と言ってくれた夫婦。
施設にいられるのは十八まで。明空は春から中学校に上がることになっていた。
もう、こんな出会いはないかもしれない。
信じてみようか。
迷っていると、隣に座っていた女性職員が助け舟を出した。
「明空君、すぐに決めなくてもいいのよ。何度か会って、お泊まりも何度かやってみて、それからでいいの」
明空は職員を見上げて目を瞬かせ、夫婦に目を戻す。夫婦はにこにこして、そうだよ、というように頷いた。
「やってみる?」
女性職員に問われて、明空は小さく首肯した。
すると夫婦の顔が輝き、半ば身を乗り出すようにして明空の顔を覗き込む。
「そう! よろしくね、明空君。明後日の日曜日、もう一度来るから、なにかやりたいことを考えておいてね」
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