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 父も昼過ぎには帰ってきて、家族三人、居間に集まってテレビで台風情報を見ていたが、幸い停電にもならず夜も更ける頃には風も落ち着いた。  何事もなく無事に台風が通り過ぎたことにほっとして、明空は両親に「おやすみ」を告げて自室に引き取る。 「みんな無事でよかったよ」と安心した笑顔を浮かべる両親に、看板が落ちてきたことは黙っていた。  実際、どこか怪我をしたわけでもない。  それこそ「無事」だったのだから、余計な心配をさせる必要もないだろう。  明空はベッドに腰掛け、勉強机の隅に置かれた小さなガラスの小皿に目を向けた。  そこは玉浮きの定位置になっていて、帰ったらポケットから出して置く癖がついている。  今日もその癖は健在で、部屋に入ってすぐそこに置いたらしい。無意識に。  立ち上がって玉浮きを取り上げ、ベッドに戻って寝転ぶ。  もしあの時、玉浮きが手から零れ落ちて転がっていかなかったら。  あの看板が当たって今頃は病院だったかもしれない。  そう思うとぞっとする。  ただの偶然、と片付けてしまうのは簡単だった。  運が良かっただけ、と。  けれど、明空はそうしたくなかった。  ――――― ここから持ち出したモンは、どんな物でも標になる。  多娥丸の囁く声が耳に蘇る。 「標……」  それが本当なら。 「また、いつか。あの場所に行けるはず」  あの日大きく見えた背中は、七年の時を経て酷く頼りなく。あの日の恩返しに、今度は自分が若旦那を守るのだ、と心に決めて、明空はぐっ、と玉浮きを握りしめた。
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