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休みのたびに遊園地だの動物園だの、イベントやテーマパークに連れ出してくれる夫婦の家に、初めて一晩泊まった日。
おじさんとソファに並んでテレビを見て、お風呂に入った後、テーブルにはたくさんの料理が並んでいて。
「明空君、これ、こないだ好きって言ってたでしょ」
おばさんが笑顔で示す料理は、あちこち行くたびに作ってきてくれたお弁当に入っていたものばかりで。
明空が「美味しい」と言ったものだった。
「はい。たくさん召し上がれ」
手渡された、炊きたてのご飯をよそった茶碗。
その温かさに、不意に涙が出そうになった。
隣におじさん。
向かいにおばさん。
二人ともにこにこと明空を見守りながら、「いただきます」と手を合わせた。
いつかの若旦那を思い出しながら、明空も手を合わせて「いただきます」と告げた。
食卓を囲んで温かいご飯を食べながら、一緒に見た動物の話や、さっき見たテレビの話をする。
そのうちに胸がいっぱいになって、とうとう涙が決壊した。
泣きながらも食べる明空に初めは驚いた夫婦も、何も訊かずに微笑んで、おじさんは明空の背中をそっと摩り、おばさんはお茶を入れて「ゆっくり食べていいからね」と湯呑みを置いた。
その夜は客間で三人、布団を敷いて川の字で寝た。
それから数度のお泊まりを経て、明空は夫婦の里子として迎えられた。
中学はちゃんと通い、小学校とは校区も違ったために、いじめに遭うこともなかった。
友達もできて、毎日が楽しいと思えた。
自然と、「父さん」「母さん」と呼ぶようになり、渓流釣りが趣味の養父と意外とアウトドアが好きな養母とに連れられて、よくキャンプに行くようになった。
高校に上がる頃に養子縁組をして、晴れて「親子」になった。
紙切れの上のことでも、改めて同じ苗字になったことが、慣れないけれど嬉しかった。
そして今。
高校三年。
建築設計の仕事をする父に憧れて、建築学科のある大学を目指して勉強中だ。
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