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「そんな濃い色……」
難色を示す若旦那に構わず、「坊にはもっと明るい綺麗な色が似合うよ」と酒を呷った。
「この雨女に任せておきな」
「……柄物は止してくださいよ」
せめてもの抵抗を見せる若旦那に、雨女は少し考えて、曖昧に頷く。
「襟や裾にちょっとだけならいいだろ?」
ひとついいと言うと際限がなくなる。それでなくともすでに色で譲歩しているのだ。若旦那は不機嫌に眉を寄せて酒を呷る。
「ちょっともダメですよ」
「ええ? 本当にちょっとだよ。流水に花弁散らすとかさ」
「却下です」
「けち」
いーっ、と歯を剥いて、雨女はくいと酒を呷り、手酌でまたぐい呑みを満たす。
「自分の着物でおやんなさい」
「あたしはもっと大きな柄が好きなんだよ。ね、晴れ着用に一つだけ作らせておくれよ。年に一度着てくれりゃいいからさ」
どうしても見たいらしい。
若旦那は母替わりの彼女には弱い。
深く息を吐き出してから酒を呷り、やはり手酌で注ぎながら口を開く。
「――――― 一枚だけですよ」
諦めた声音で言うと、雨女の顔がぱあっ、と輝いた。
「いいんだね!言質は取ったからね。仕上がったら着て見せとくれよ。はい、げんまん」
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