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 気づけば船は穏やかな海を進んでいた。 「え、あれ、台風は?」  キョロキョロと辺りを見回すが、空も海も気持ちがいいほど青い。  そしてすぐに、島が見えてくる。  高台に、見覚えのある建物があった。  港からまっすぐに上った先だ。 「あの旅館だ……!」  船の縁から身を乗り出すようにしてもっとよく見ようとすると、ぐっ、と多娥丸に襟首を掴まれた。 「おいおい、何してんだ。落ちるぞ。心配しなくても直ぐに着く。――――― そら」  言葉通り、船はゆっくりと港に入り動きを止めた。  身軽に船を降りた手下のひとりが手早く船を固定して合図をすると、船の縁から下へ大きな板が渡される。多娥丸がひょい、と肩に明空を乗せ、悠々と先頭を切って降りると手下たちは我先にと続いた。 「多娥丸、いいよ降ろして。自分で行ける」 「このほうが早いぞ。遠慮するな」  快活に笑う多娥丸は取り合わず、明空は高みから見下ろす形で旅館への道を辿るハメになった。     
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