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 空には煌々と大きな白い月が浮かび、庭の桜を照らしている。  はらはらと降り落ちる花弁が時折緩く渡る風に攫われて、はらりと縁側に舞い降りた。  そのうちの一枚が、悪戯に若旦那の膝に落ちる。想思(そうし)(ねず)の着物に、薄紅の花弁。払うでもなくただそれに目を落とし、見つめていると、頭上から声が落ちてきた。 「今度、その色で羽織を仕立ててあげようか。坊に似合うよ」  緩慢な動作で振り仰ぐと、優しげな笑みを湛えた女が立っている。 「雨女……」  ぽつ、と呟く若旦那に目を細めて微笑み、手にした酒瓶と二つのぐい呑みをひょい、と掲げてみせた。 「一緒にやらないかい。花見酒と洒落こもうじゃないか」  うきうきと楽しそうに言って隣に腰を下ろす。 「たまには明るい色の着物でも着て、気分を変えてごらんよ」  ぐい呑みのひとつを若旦那に持たせ、ととと、と酒を注ぎながら軽い口調で言う。 「灰桜か桜鼠(さくらねず)くらいなら……」  かつん、と鈍い音を立てて合わされたぐい呑みに口を付けながら低く言うと、雨女はとんでもない、と言いたげに眉を寄せた。 「何言ってんの。薄桜はちょっと色が足りないから、乙女色か、薄紅色か」     
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