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八百屋のおじさんは、店先にいた奥さんらしき人に、
「おい、母ちゃん!
昔使ってた赤ん坊の背負い紐あったろ?
あれ持ってこい!」
でもって俺に振り返ると、
「兄ちゃん、米は背中に背負ってけ」
ニヤリと笑った。
「えーっ!
、、、いやっ、いいです、いいです」
店の奥さんは大笑いしながらヨレヨレの紐の様なものを持って来た。
「何言ってんだ、道端で瓶でも落としたら大変だろ!
、、、ほぅら、これで安心だ!
次来たとき返せよ、それ娘の思い出品だからな」
あっと言う間に背中に米を括られ、俺は周囲の
「あらっ、可愛いわねー」
とか、
「よく似合ってるわよぉ」
と言う無責任なからかいと、ニヤニヤした視線とあからさまな笑いとに耐えながら、両手に袋を下げてユキさんを追った。
「ちょっと待ってよ、ユキさん」
かなり前の方を歩いていたユキさんは振り返って俺の姿を見るなり、ぎょっと一瞬驚き、次には顔を上げて高らかに笑った。
「あーっははは、、、、
さすが汰くん、僕と違って何でもよく似合うなあ。
、、、今度はそれと同じ紐、買ったげようか?」
尻上がり口調は言いたい放題。
「もう帰ろうよっ」
「後は肉屋と豆腐屋、それで最後だから」
「大体さ、買い物してく順番逆じゃない?」
息切らしながら文句言っても、
「そうか?」
ユキさんの間延びした返事は気にもしてない上、
「米屋って商店街の一番手前だったよ。
それにこの大根とキャベツ、、、すき焼きに関係ないしさ」
「でも椎茸サービスしてもらう為だったからなぁ、、、」
立ち止まって空を眺めながら呑気に呟く。
「わかった、わかった、もういいから早く行こうよ。
俺、体力も周囲の視線も限界、、、」
そしてユキさんは視線を俺に戻して、
「肉と焼豆腐は僕が持つからな」
とにっこり笑った。
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