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3.
デパートのガラスの向こうに、六花さんの姿が見えた。思わず、手を振った。
肩までぐらいだった髪が、長くなっている。前より、大人びて見えた。水色のニットキャップが似合っている。
入口のドアを押して入って、ぼくのところまで来た。「こんにちは」と言う声が、少し震えている。
「こんにちは。久し振りだね」
寒かったのか、顔がこわばっている。
先に喫茶店にでも入った方が、落ち着くだろうか。
「寒いね。向こう、雪降ってた?」
「はい……降ってました」
やっぱり、声が震えている。
「手紙やメールでやりとりしてるのに、こうして会うと照れるね」
ぼくは、六花さんの気持ちをほぐそうと、笑いかけた。
「会場は6階だけど、先に何か温かいものでも飲む?」
歩き出したはずが、六花さんがついてこなかった。
具合でも悪いのかと、近づいて顔をのぞきこんだ。
「六花さん、どうかした?」
すると、六花さんは外に飛び出した。ぼくは慌てて、後を追いかけた。
「六花さん!」
ぼくが呼び止めると、こちらを向いた。その顔は、今にも泣きそうだった。
雪が降り出していた。
ビル風にあおられるからか、雪は四方八方に舞う。
六花さんはまた、くるりと背を向けると、駅の方に走り始めた。
その後を追いかけようとしたが、雪が幾重にもカーテンを下ろす。
まるで六花さんに拒絶されているようで、今度はぼくの方がその場から動けなくなっていた。
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