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『裕希さんへ 毎日、電車通学です。田舎は電車の本数が少ないので、乗り遅れたら遅刻です。  毎朝、必死で走ってます。中では、友だちとおしゃべりしてる時が多いかな。  窓から、山や川がお日様の光できらきらしてるのが見えると、今日もいいことありそうって思います。 六花より』  六花さんの毎日は、光にあふれているようだった。  ぼくも、入学した時の新鮮な気持ちを思い出した。  六花さんは、絵も描くようだった。一枚の絵が同封されていた。  それは、道端の草花を細密に描いた絵だった。  今にも、小人がひょいと顔をのぞかせそうだった。 『裕希さんへ 私の絵をほめてくれてありがとうございます。  こういう絵を初めて描いたのは、中学校の美術の時間です。  学校の周りで写生していました。  みんなは遠くの山とか、道が伸びていく奥行きのある風景とかを書いていたのに、私は目の前のシロツメクサを描きました。  先生のねらいとは、ずれてたみたいだけど。  それから、こういう絵を描くようになりました。よく、道草しています。 六花より』 『裕希さんへ 裕希さん、クモって嫌いですか? 嫌いじゃないといいなあ。  知ってますか? クモって巣を移動する時、横糸は通らないんです。くっつくから。  粘らない縦糸を移動します。  この間、クモが巣を作るのをずっと見ていたんです。その時発見しました。  水滴がかかると、レースにビーズが連なっているみたいです。 六花より』  六花さんにかかると、自然の何もかもが健気に命を輝かせていた。  ぼくも足を止めて、見入るようになった。 『裕希さんへ 私はのんびり屋でさっさとしないからか、母が段取りを決める時があります。  母は「おかあさんの言う通りにしていれば、間違いないんだからね」と、よく言います。  そう言われると、間違えたらダメってことなのかなあって、思ってしまいます。 六花より』 『裕希さんへ 名前は両親からもらう、最初のプレゼントです。  裕希は「大きなねがい」って意味ですよね。気持ちのこもった、すてきなお名前です。  私も自分の名前を気に入っています。  父が雪子にしようかって言ったら、母が雪の結晶のことを六花っていうんだって言って、決めたんですって。  きっとこの言葉って、雪の結晶を見た人が「ああ、花みたいだな」って思ったんですよね。  昔の人が感動した想いが、自分の名前になってるなんて、いいと思いませんか。 六花より』
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