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越田さんと話がしたくて、メールで夕食に誘った。
「家で鍋するぞ」と返信がきた。
「カセットコンロ無いっす」と返すと、
「材料、切っとけ」と返ってきた。
スーパーで材料を適当に買って家で切っていると、越田さんがやってきた。カセットコンロを抱えている。
「うちでやるんですか」
「どっちでもいいがな。そこらへん、ちゃちゃっと片付けえよ」
越田さんは、ぼくの倍速で材料を切ると鍋に放り込んだ。
ほどなくして、熱い寄せ鍋にありつけた。
「何か俺に話したいことがあるんか」
ぼくに水を向けてきた。
「えっと……ぼく、ふられたみたいです」
「誰に」
「六花さんに」
「つき合ってたんか! 俺に断りも無しに」
越田さんは、はしをパンと音を立ててテーブルに置く。
「つき合ってないですよ。ずっと手紙だけです。でもこの間、写真展に誘ったんです」
「断ってきたんか」
「いえ、来ました。でも、十分ぐらいで帰ってしまいました」
「何かしたんか。嫌なこと言うたんやろ」
「何もしてないですよ。ほんとに」
本当にそうだろうか。あの時のことを思い浮かべて説明した。
「あれから、手紙もこないし。メールも無しで」
越田さんは、菜箸で白菜をつついている。ぐつぐつと、煮える音がする。
「あのな、待っててやってくれんか。六花は今、階段をゆっくり上ってるとこなんや」
ああ、そうなのかと納得した。離れていてもわかるんだ。
いや、越田さんこそ六花さんの側にいて、見守りたいんだろうと思う。
「ほかに好きな子ができたら、それはそれでいいんやけどな。ほら、もっと食え食え」
「越田さんこそ、食べてくださいよ」
二人で食べる鍋は、お腹の中から体を温めた。もう一度、手紙を書こうと思った。
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