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「高校入る時には、万年筆をプレゼントするって約束してたんや」
「それが何で中古なんですか。新品あげたらいいじゃないですか」
「まあ、そうなんやけどな。今月いろいろと物いりでな」
そういうところが離婚の原因かと勘繰る。
「いや、そやけどこの万年筆、何か引きつける力みたいなのを感じたんやなあ」
「それはぼくも感じました」
「そやろ。これが六花の能力を引き出してくれるんやないかって思ったんや」
あの数分の間にそんなことを考えていたのか。少し見直した。
「それで、何でぼくがお供してるんですか」
「あのな、渡せるよう見ててほしいんや」
いきなり成り行きで越田さんの人生の数ページを見せられた。別に義理はないのだ。ないのだけど。
ぼくの中で、くたびれた中年男と分類していた越田さんが、だんだん厚みを増し一人の人間として動き出した。すると俄然、興味が湧いてきた。
ぼくのサポートが要るということは、すんなり会えないということだ。
「もしかして、ずっと会ってないんですか」
「別れてから一度も会ってない」
よほど、ひどいことを越田さんがしたか、奥さんがきつい人なのか。それとも六花さんに嫌われていたのか。
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