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万年筆の独り言
裕希さんの推測通り、この2年間、六花さんに寄り添ってきたのは、この私に他ならない。
六花さんの想いを綴ってきたのだから。
中でも、印象に残っている日記がある。
裕希さんと待ち合わせた日のことだ。
あの日の日記は、六花さんには珍しく、少し字が乱れていた。
『もお、何でかわからん。自分がわからん。
裕希さんと、写真展に行く約束をした。
待ち合わせの場所に歩いていく時、何かふわふわして、地面を踏んでいる感じがしなかった。
学校へ行くのとは反対方向の電車だし、よく考えてなかったけど、
そんなに遠くないんよね。
会おうと思えば、会えるんやね。
でも、直接会うのってよくないかな。
頭の中で危険信号が点滅した。
入口のガラスの中から、裕希さんが手を振ってた。
前より、髪の毛短くしてた。目元がすっきり見えた。
「こんにちは。久し振りだね」
ああ、クラリネットの深い声。体中に響く。
「寒いね。向こう、雪降ってた?」
「はい……降ってました」
それだけ言うのが精一杯やった。
「手紙やメールでやりとりしてるのに、こうして会うと照れるね」
笑うと八重歯が見えて、子どもみたい。
絶対年上に見えんよ。
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