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2.
4月に入り、ここでの3年目の生活が始まった。
六花さんも高校生活が始まっただろう、越田さんと飲みに行ったことを報告しようと思っているうちに、六花さんの方から手紙がきた。
ぼくの名前が、ブルーブラックの楷書で書かれていた。
目的は先日のお礼だったが、万年筆で書くのが楽しくて仕方がないとのことだった。
『今まで使ったどんなペンよりも、すらすら書けます。この万年筆を握ると、頭の中にイメージがどんどん湧いてきて、思っていることにぴったりの言葉が綴られていくのです』
あの万年筆には、何か仕掛けがあるのだろうか。
いや、そんなことはない。
六花さんは入学して、いくらでも書くことがあるからだ。
『私は吹奏楽部に入ってます。担当の楽器は、クラリネットです。裕希さんの声を聞いた時、クラリネットの中音みたいだって思いました。落ち着いた、深い響きです』
そんなことを言われたのは初めてだった。
最後に、メールのアドレスが書いてあった。これからも手紙を出していいかとあった。
ぼくは、すぐにメールを打ち始めた。
入学のお祝いと手紙のお礼、越田さんの様子を少し。そして、『クラリネットの音を聞いてみます』と入力した。
あれもこれもと、伝えたいことが出てきた。でも、だらだらと長いのもなあ、と親指が行きつ戻りつした。
結局『手紙待ってます』と打って、送信した。読み返すと何とも素気ないメールで、気落ちした。
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