レッドブルはどこへ消えた

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帰り際に僕はコインロッカーの鍵を拾った。 きっと落とし物なのだろう。 しかし僕の知恵脳はここでフル回転し、「困っている落とし主にこの鍵を届けることで、運命の出会いを演出しよう」という作戦に至った。 コインロッカーの鍵がないと間違いなく困る。 それを届けることは命の恩人ともいえる行為に等しい。 そのさきにフォーリンラブが待ち受けていることは明確である。 僕はカウンター横へと陣取り、コインロッカーキーを探している人がいないか慎重に目を凝らした。 すると 憎きヒゲ野郎が妙な動きをしているのに気がついた。 それはダンスと呼べるものなく、何か焦った不安な顔をしながら腰を屈め、地面を見渡し、フロア全体を行ったりきたりする不思議な動きだ。 まるで何か落とし物を探すかのように。 お前か。 そしてヒゲ野郎が何やら不安な顔で友達に耳打ちし、その友達が「はぁ?まじかよー」と言わんばかりの顔をしたあと、ヒゲ野郎と一緒にヒゲ野郎と同じように腰を屈め、地面を見渡し、フロア全体を行ったりきたりする不思議な動きをしはじめたのをみて、僕の予感は確信に変わった。 お前だな。 僕は手にしていたロッカーキーをカウンターの向こう側のスタッフルーム付近に放り投げた。 さらばヒゲポックル。 お前の大好きなクラブで、出口のない無限回廊を楽しむがいい。 僕はひとしきり満足し、家路へと着いた。
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