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「あーー、彼氏欲しい」
「聞き飽きた」
窓の外では雨が降り止まない、五月。教室の端で二人の女子高生がそんなやり取りを交わしていた。
「あれは?前言ってたバスケ部の」
「あの人はなんかねぇ、違うの」
「はぁ……」
そんな風に呆れた相槌を打つのは心美。私とは小学校からの仲で、気付けば隣にいるような女。最近は親と弁当の事で喧嘩したらしく、惣菜パンを食べている。気は合うけど趣味は合わない。そんな心美がこんな事を言い出した。
「じゃあさ、私と付き合おうよ」
「あー、それもありだね、ありあり」
いつも適当な返事、それが私だ。それは心美も分かってくれてるし、分かってくれてるのを私は分かってる。だけど、今日の心美はちょっと違った。
「いや、真剣に付き合ってほしいんだけど」
「え」
そう言って私の目を真っ直ぐ見つめてくる心美。私は一瞬、何が起きたか理解出来ずにいた。そんな頭の中で、吸い込まれちゃいそう、とだけ感じた。
「だめ?」
「え、や、だめー……とかじゃないけどぉー……」
「よし、じゃあ決定」
そう言って私の手を掴んでくる。あったかい。爪綺麗。指細い。じゃなくて。
「え、本当に?え、だって私達……」
「女同士だから?それとも、友達だから?」
「う、うん……」
「そんなの関係無いよ、私は結衣のこと好きだし」
ストレートに好きと伝えられたのは、いつぶりだろうか。そう言う心美の目には、迷いも嘘も感じられなかった。
三回目のお付き合いは、幼馴染みの女の子と。恋愛って、まだまだ奥深い。
「とりあえず今日はずっと手繋いでおこっか」
心美がそう続けた。
「……うぅ、今日はやだー!」
意図せず、そんな声が出た。私の好きって、どういう好きなんだろう。
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