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「彼は・・・部下が連れてきたんですか?」
「ええ、警察の方と一緒に。それでどのようなご用件でいらしたのでしょうか?」
わざととぼけてみせると八重原は少しだけ眉を動かした。
だがすぐに弦の答えに本人の中で合点がいったのか八重原は手を膝の上へ置き、弦と向き合う。
なにかマズいことを言たのだろうかと思ったが考えても仕方ないので、彼の反応を待つことにした。
「この村で起こっている事件の調査に参りました。・・・お父様からは何も聞いておられないのですか?」
どうやら弦が村長である充の息子であることは知っている様だった。
秘密主義者の柳田が栩木の家の事を誰彼なしに喋っているということはまずないだろうから、事前に何かしらの方法で調べたのであろう。
ただの調査であればそんなことはありえない。
「私は詳しくは聞いておりません。なので詳細を教えていただけませんか?父が所用で村を開けている今、立場上私が村長の代理ですので村に何か起こっているなら知っておきたいのです」
八重原は少し迷っているようだ。
警戒しているというより子どもに事件の概要を喋ることをためらっている、そんな感じに見える。
「栩木満月さんから手紙で樫ヶ見村で村民が消えていると通報がありましてね。先日から部下を先行さして捜査に当たらせておりました」
当たり障りのない答えが返ってくる。
弦は少し驚いたふりをして続きを促す。
「妹がですか・・・。確かに何人か姿の見えない村民がいます。それで捜査の結果はどうなりましたか?」
妹の手紙の事も知らないと言っておこうかと思ったがあまりつっこむとボロが出るかもしれないと思いグッと飲み込む。
「・・・込み入った話ですのでまずお父様と話させて頂きます」
「父はいつ帰ってくるかわかりませんので・・・」
「それでは出直します。2,3日後にまた伺いますので」
意外とあっさりと引き下がり立ち上がる八重原。
ほっとした弦と木地森の頭の上に投げかけるように八重原が言う。
「帰る前に手洗場をお借りしてもよろしいですか?」
弦は一瞬言葉を詰まらせる。
おそらくそれを口実に家探しするつもりだろう。弦から何かを聞き出すよりそちらのほうが手っ取り早いと判断を切り替えたようだった。
見上げた八重原の瞳からも何か思案しているような雰囲気を感じる。
しかし、客人である彼を手洗い場に案内しない訳にもいかない。
壊れているから使えないと嘘をつくこともできるが、それだと先に家に上げた柳田と田中達にも不便を科した事になる。家の家長代理としては嘘とはいえそんな程度の低い不自由をさせたと思われるのは大変恥であった。
「ええどうぞ」
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