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「蛇と少年とは何のことだ?」
田中が眉を顰めている。喋る気配のない森下のかわりに刃津張が補足をした。
「近所の泉時さんの家に住んでいる名答君の事でしょうが、蛇はよくわかりませんね」
「”蛇がいたのか森下”」
質問を書き終わると同時に森下の瞳孔が収縮する。
明らかに怯えだして手で顔を覆う。
「”違う、蛇じゃない。思い出したくない、声がする。頭が割れる”」
「”わかった、ありがとう。よくやった、森下。もう休んでてくれ”」
情報は不十分だが彼にこれ以上無理をさせるわけにはいかない。
刃津張は話を切り上げるため、手の甲にそれだけ書くと少しだけ安心したのか彼の体からわずかに力が抜けた。
田中に目を向けると顎に手を当てて、なにやら考え事をしてる。
森下の語り口から何かを察したらしい。”蛇”に関しては彼のほうが自分より専門なのだろう。
落ち着いた森下を曽根に預けて田中と井上と共に泉時家へ向かうことにした。
一般市民の家に彼女を連れて行くのは、牛面の襲撃の可能性も考えれば気が引けるが田中曰く対策はしてあるらしくなにより井上が同行を強く希望したため、彼女を連れて現場を離れ、5分と経たず2ブロック先の泉時家へ着いた。
「刃津張」
戸を叩こうとした刃津張が手を止めた。
「これを渡しておく」
田中の手には小袋がひとつ。
「これは・・・前に使った・・・ええと法術の道具ですか?」
「そうだ、おそらく必要になる」
それを受け取ってベルトに適当に下げる。
そして、泉時家の戸を叩いた。
「夜分遅くに失礼します、泉時さん。名答君は帰宅していますか?」
しばらく待つと戸が開いて泉時爺が現れた。
茜の寝巻に柑子色の羽織、相変わらず目元は包帯で覆われている。
「名答はまだ帰っとらんよ。どうせ時期に帰ってくる。今夜中に全て終わるからな」
「えっ?」
「あれが子牛どもと鉢合わせしてだいぶ経つ、時期に娘のところに着くだろう。設楽では守れん。井上麻理江、残念だったな。もう少し早くあの娘を迎えに行くべきだった」
「どうしてあなたが・・・!」
井上の顔色が変わる。カラカラと笑う泉時の様子に不安が募る。
(もしかしてこの人は牛面の仲間か?)
無意識に後ろの井上を庇うように立つ。そんな刃津張の雰囲気を感じたのか老人は笑いひっこめて淡々とした口調で告げる。
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