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開幕 噂話
時は1948年、まだ戦災の残香が鼻につく紛乱の時代。
人々の心に影を落とす事件が起きた。
それは年初めの満月の夜のことだ。
静かな月明かりの下で男が一人死んでいた。
見つけたのは近所の住人だった。ひどく凄惨な死体の有様に住宅地一帯は騒然となった。
夜中の犯行でなおかつ人通りの少ない通路での犯行だったため犯人は捕まらなかった。
そして、数日後同様の事件が起き、警察が大勢動員されることとなった。
目撃証言もないがひとつだけ共通する証言があった。
それは、事件のある夜は必ず牛の鳴く声が聞こえるというものだった。
色濃い死の臭いに老若男女関係なく震え上がった。
犠牲者が3人に増えたころ、事件を火種にとある噂が立ち上った。
それは、夜な夜な灰をまとった大蛇が人を食うというものだ。
荒唐無稽な話だが誰もがその噂を信じた。
あまりにも死が身近なものだったから、無差別殺人という人から人への暴虐が行われている現実を直視したくはなかったのだ。
そして、最初の事件があった日と同じ綺麗な満月の夜に、闇に誘われるように物語は始まる。
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