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1話 3 心の中に潜むもの
三人が北一区に着くと田村と吉田がジープに走り寄ってきた。
「刃津張君、田中さん大変だ。沢木さんと森下君が!」
「・・・状況はどうなってますか?」
「牛面は2人死亡して森下君が重症。傷は軽度なんだけど耳と目がダメになって・・一時的だろうけど声も出せないみたい・・・。一緒に見回りしてた沢木君は・・・もう・・・騒ぎになるといけないから、現場検証は極力最低限の人数を寄越してもらうことにしたよ」
「沢木・・・」
田中の顔が険しくなる。自分の部下が死んだのだ。雰囲気からも憤りが伝わり、刃津張自身も森下の状態を早く確認したくて話を急かした。
「・・・森下はどうしてます?」
「現場にいるよ、泉時さん家の近くだ。動こうとしなくって、上田君と曽根さんがついていて泉時さんの家の近くで・・・って刃津張君!!?」
ジープを飛び出した刃津張は現場へ向かう。田中と井上も田村達の案内でその後を追った。
現場は静かなものだった。報告通り死体が3体とその近くに曽根に介抱されている森下がいた。上田は周囲を見張っている。
「森下、俺だ分かるか?」
刃津張が森下の前に屈みこみ声をかけるが、反応がない。手を取って顔に触れさせてやると指先で探るように皮膚をなぞり、パクパクと口を動かす。
その有様は見ているだけで痛々しかった。森下が何かを伝えようとしているのは分かるが刃津張には把握する手段がないのがもどかしい。
動き続ける唇を苦い思いで見つめていると後ろにいた田中が唇に合わせて話し出す。
「”誰、ですか、今、どうなっていますか?”」
「田中さん、唇が読めるんですか!」
感心する田村に首肯を返して田中は刃津張に返事を促した。
刃津張は森下の手の平にゆっくりと文字を書く。
「”刃津張だ、牛面は死んだ。田村さんと曽根さんと田中上等官がいる。何があった?”」
「”少年はいないのですか?”」
「”誰の事だ?”」
「”和服を着たあまり見ない顔の少年です。言葉がうまくなくて年の割に子どもっぽい子でその子の蛇が”」
森下の唇が躊躇したように止まった。
(少年って名答の事か・・・)
森下の話す特徴は彼と一致する。案の定現場に居合わせたらしい。
(なら、彼はどこに行った?)
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