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スマホのディスプレイに表示される「公衆電話」の文字。
私は、待ってましたとばかりに電話に出る。
彼からだ。
冬の公衆電話。雪がちらつく中、彼があの革の手袋で受話器を持っているのを想像する。
この時代に公衆電話でなければいけない理由。
それはたった一つ。
彼のスマホに私への発信履歴が残ってはいけないからだ。
そう。彼の不倫相手に私はなった。
彼は今どき、テレフォンカードをわざわざコンビニで買うのだ。
そして使い終わると律儀に私にくれる。
「二人の思い出だから。」そう言って。
でも、使い終わったテレフォンカードの小さな穴を見て思うのだ。
私たちの恋も、時が経てば経つほど、こうやって穴が開いていって、最後にはペラペラに終わる。
分かってる。だけど、
「あ、ごめん。電話切れそう。」
彼が電話口でそう言った。
21枚目の穴が開いたテレフォンカードを今度もらおう。
そして、思うんだろう。
何枚目のテレフォンカードで、私は彼と終わるのだろう。
終わらせられるのだろう。
私は、寂しくなって、もう少し話そう…とねだった。
タイムリミットも分かってる。
テレフォンカードの穴は全部開いてしまったのだ。だけど。だけど。
「じゃあ100円入れるよ。」
テレフォンカードは、もういらないかもしれない。
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