謎の常連客

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「いらっしゃいませー。空いているお席へどうぞ。」 私はいつも通りの挨拶をする。 彼は頷き、いつもの窓側の席に座った。 やはり窓を眺める姿も、絵になる。 そんな事を思いながら、おしぼりと水の入ったグラスをトレーに乗せて、王子様の元へと運んだ。 メニューはいらない。 彼はいつも、同じ物しか頼まないから。 「ご注文はいつもと同じで、よろしかったですか?」 またこくりと頷いた。 「かしこまりました。少々お待ちください。」 私はくるりと後ろを向き、厨房にいる店長にオーダーを伝える。 「ああ、またあの人か。もう来ると思っていたから、丁度いい。」 既にオーダーの物を作っていたらしい。 それもそうだ。 あの人は毎日、3時きっかりに来店して、同じ物を頼む。 「お待たせいたしました。ガトーショコラとチーズケーキです。」 注文の品を持っていく。 そして慣れたように、チーズケーキを王子様の前に。 ガトーショコラは、王子様の向かい側の席に置いた。 勿論そこには、誰もいないのだが。 一度向かい側に置いてほしいと頼まれたのだ。理由はわからない。 そして、しばらくケーキに手をつけず、じっと前を向いているのも、いつも通りの事である。 これも理由は知らない。 なんとまぁ、美しいが風変わりな人である。
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