きっかけは

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きっかけは

ぐぅ~~~…… 静かな店内に、私の品の無い腹の音が鳴った。 さっき賄いを食べたばかりなのに。 今日はいつもより忙しかったからか、お腹が空いてしまっていた。 何て格好の悪い……。 しかも、王子様がいる時に。 近くにいるから、音も聞こえていただろう。 自然と顔に熱が集まる。 ああ、これが近所のおじさんや店長なら何とも思わなかったのに、と若干失礼な事を思っていた。 「……あの。」 ふいに呼び止められた。 綺麗なテノール。 王子様だ。 「……はい?」 急な事に驚いた。 あまり喋る事のないお客さん。 どうしたのだろう。 お腹の音に不快な思いをさせただろうか。 それとも、今日のケーキが口に合わなかったのだろうか。 「一緒に、食べませんか?」 言われた言葉は、予想だにしなかったもの。 私は思考停止してしまった。 「ケーキ、二つ頼んだので、よければご一緒に。」 「……えっ、あの、わ……私ですか?」 王子様が頷いた。まぁ、私しかそこにいないのだからそうだろうが。 何故? 「真理亜ちゃん、休憩入りな。昼は殆ど休めてなかったんだし。」 聞こえていたらしく、店長が厨房から顔を覗かせる。 「今は空いてるし、ゆっくり休みなよ。」 「あ、ありがとうございます店長。」 お言葉に甘えて、私は王子様に勧められて向かい側の席に着いた。 「ガトーショコラ、食べていいから。」 「ほ、本当にいいんですか?お客さんの食べ物ですし……。」 「いい。食べてくれ。」 「で、では頂きます。」 座っておいて、これ以上の遠慮はいらないはず。 私はフォークを握った。 チョコレートのいい匂い。 ごくりと唾を呑んだ。 お腹が空いてるから、ともいえるが、私は元からこの店のガトーショコラが大好物なのだ。 柔らかいスポンジ生地に、ゆっくりとフォークが沈み込む。 一口サイズにカットし、口に運んだ。 チョコレートの甘味が口の中に広がる。 ほんのりと、オレンジの酸味がアクセントになっていた。 「んーっ美味しいっ!」 いつ食べても美味しい。 思わずテーブルを叩いてしまい、慌てて王子様に詫びる。
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