3人が本棚に入れています
本棚に追加
何気ない質問をぶつけた。
それに、リヒトさんは困った顔をし、言い淀む。
もしかして、何か不味い事を言ってしまったのかもしれない。
「あの、何だかすみません!言いにくいなら別に……。」
「いや、そうではなくて……その、俺はケーキが好きではないんだ。客のくせに、失礼な話なんだが。」
「え!?あ、いえ、お気に召さらず!」
ケーキか好きではないのに、ケーキを食べる?
その心理は理解出来ない。
そう思っていると、リヒトさんが答えを話してくれた。それはとても寂しげに。
「思い出の味なんだ。彼女と最後に食べたのが、ここのケーキだった。」
「彼女さんと……。」
私は声のトーンを落として、呟くように言った。
これだけイケメンなのだから、彼女ぐらいいるだろう。
問題は最後と言ったところ。
「……彼女さんとは今は?」
「3年前の嵐の日に事故で……。」
「す、すみません!!それ以上は大丈夫です!」
聞いといて止めたのも失礼だが、根掘り葉掘りプライベートの事を聞くのはもっといけなかった。
彼女は、多分だが故人となってしまったのだろう。
愛した人との思い出の味を求めて、カフェに来ていたのか。
知らなかったとはいえ、辛い事を思い出させてしまった。
「あの…すみませんでした。」
「気にしないでくれ。俺から話した事だ。それに、誰かに話を聞いてもらいたかった。」
ふっと笑う姿に、私は不覚にもどきりとした。
「彼女は生まれた時から、一緒にいたんだ。お転婆で甘い物好きの食いしん坊。でも誰よりもキラキラと輝いて見えた。心優しくて、楽しい人だったよ。」
「……愛していたんですね。」
「あぁ、心からね。勿論今も。」
彼は私をじっと見つめながら、言った。
寂しげだが、固い意志が籠っている。
最初のコメントを投稿しよう!