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しばらく話をしてから、リヒトさんは帰って行った。また、機会があれば一緒にケーキでも食べようと言ってくれた。
あの話を聞いて、王子様に同情してしまう。3年経ってもケーキを食べに来るのは、彼女の事を忘れられないからなのだろう。
見た目からして、次の相手に困りそうにないのに。
それだけ彼女を愛し、彼もまた一途な性格だったのだろう。
私はお皿を片付けながら、彼の事を思い出した。
いつか前に進めたら、彼女の事を忘れはせずとも、自分の幸せを考えて生きられるようになれたら。
彼はここには、来なくなるのだろうか。
何故か私の胸は痛んだ。
「そういや、今さらだけどさ真理亜ちゃん。」
店長がテーブルを拭きながら、私に声をかけた。
「あのお客さんって、王子様に似てないか?ほら、あの公園とこの時計塔の。」
「あ!私もそう思っていました。髪とか瞳とか。」
「だろう?さっき申し訳ないが、ちらっと聞いちまったよ。あの人も王子様と同じで、お姫様を待ってんのかねぇ。」
「え?お姫様?お姫様の人形があったって事ですか?」
初耳だった。
確かに王子様がいるなら、お姫様がいても不思議ではない。しかし、私が見た時から、王子様しか見た事がなかった。
「知らないのか、真理亜ちゃん。あの時計塔、一度ぶっ壊れた事があったんだよ。嵐の日に物やらが飛んできて当たったんだろう。人形も時間には、躍りに出て来るから風で吹きとんじまうし。他の人形は近くに落ちてたが、お姫様の人形だけ、どこかにいっちまったきり見つかってないな。」
「そうなんですかぁ。お姫様の人形、私も見たかったです。」
心底残念に思っていると、店長が大声で笑い出した。私は顔を膨らませる。
「何で笑うんですか!さては、人形が見たいとこ、子どもだと思ったんでしょ!」
「いやいや、そうじゃなくてな。それなら鏡見たら早いかもなぁと思っただけだ。」
「どういう事です?」
私は首を傾げる。
「だって、真理亜ちゃんはその人形にえらくそっくりなんだよ。」
「えー、そんなお人形いませんよ!」
「いやいや、本当だって。茶髪に緑色の瞳って組み合わせも、真理亜ちゃんに似てるんだよ。」
私は顔をしかめる。内心、自分の髪色や瞳の色が気に入らなかったのだ。外国の血が入っている訳でもないのに、この見た目なので目立ってしまう。
「まぁ、色だけなら似てるんでしょうけど。私に似たら可愛くないです。」
「そんな納得いかないかなぁ?真理亜ちゃん美人なんだから。おまけに性格もいいし、そりゃ貰い手もすぐに出来るわな。」
私の薬指に嵌まるシルバーリングに、店長は自然と目を向けた。
そう、私は数ヵ月前に挙式したばかりの新婚だった。
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